iPhone 衝撃のビジネスモデル / 岡嶋 裕史

iPhone 衝撃のビジネスモデル (光文社新書)

iPhone 衝撃のビジネスモデル (光文社新書)

「電話を再発明する」というキャッチフレーズで衝撃的なデビューを果たしたiPhoneだが,実はジョブズが再発明したのは,「収益構造」である.じゃあ,その方法(ビジネスモデル)は?というのが本書の論点である.

Web2.0の問題

iPhoneの話の前に,本書はまずWeb2.0やインターネットについていくつかの問題点を指摘している.

Web2.0は手段

1つ目は,うすうす誰もが感じている事ではあるが,Web2.0的サービスや技術そのものが富を生んではいないということ.グーグルもアマゾンも Web2.0的なサービスを手段としては用いているが,収益モデルは古典的である.ビジネス的にみれば,グーグルは広告事業者,アマゾンは通販事業者なのである.実際に金を稼いでいるのは,グーグルに広告を出しているリアルな企業なのである.

また,ちょっと乱暴だが,CGM(SNSやブログ)が結局企業の宣伝コンテンツを無償奉仕で提供しているとすると,そもそも既存の権力構造を破壊しユーザー主体の世界を形成するというWeb2.0が,実は権力に利用されちゃっているという問題.

情報無料化

2つ目は,情報無料化の問題.インターネットはもともとがタダの文化であるとしても,すべての情報(コンテンツも含め)が無料化していくことは問題ではないか.

デジタルデバイド

3つ目は,デジタルデバイドの問題.ユビキタス社会になればなるほど,様々なユーザーインターフェイスをもつ機器が氾濫し,便利になるどころか普通の人にとっては極めて煩わしい社会になっていく.操作するデバイスや方法がそれぞれ異なるためそれらを習得し,おまけにいくつものパスワードも記憶する必要がある.

Mobile2.0のアドバンテージ

これらの問題は,Mobile2.0,つまり携帯ビジネスの世界ではどうなるか?

携帯は垂直統合されたビジネスモデルであり,インフラは少数の通信事業者が寡占している.だから,料金徴収制度が成り立ち,コンテンツに対して対価を払う土壌ができている.1つ目と2つ目の問題はこれでクリア.

ポイントは3つ目(デジタルデバイドの解決)にあるのだが,これは今の携帯でも同じ問題を抱えている.テンキー入力という貧弱なインターフェイスだ.

iPhoneはオーグメント

しかし,iPhoneならそれを解決できると筆者は言う.マルチタッチ式の前面タッチパネルという優れた集約型インターフェイスが,すばらしいユーザーエクスペリエンスをもたらすと.

集約型というのは,さまざまな機器間のバラバラの操作仕様に対してソフトでどうにでもできる(集約できる)ということ.ようは,さまざまな機器間を, iPhone1つで自由に行き来できることを意味する.この概念を,オーグメント(人間の知的能力を増幅する機器)や,フェデレート(Federate)端末といった言葉で説明している.

まとめると,優れたユーザーインターフェイスをもつiPhoneはフェデレート端末(またはオーグメント)の座に君臨し,Mobile2.0という土壌の恩恵を十分享受しつつ,コンテンツからお金を稼ぐビジネスモデルを生み出せる可能性があると述べている.

所感

ここまで読んで,オイオイ答になってねーぞと思いますよね?そう,僕が期待した答は書かれていなかったのです.

最終章では,筆者自身が考えうるiPhoneのビジネスモデルがいくつか提案されていますが,辛辣にいうと誰でも思いつくことばかりでした.ジョブズが考えたビジネスモデルでもなんでもないのです.iPhoneならできるかもしれないと言っているだけでした.ただ可能性があると.

ただ,僕が本書から得たものは,実は全く別のことでした.それは,上記に書いた「Web2.0の問題」と「Mobile2.0のアドバンテージ」を明確に再認識できたことです.Web2.0はこれからスゴイ!ということばかりが誇大伝播し,それが一人歩きしていたように思います.少なくとも僕自身は,Web2.0がもつ問題点についてあまり向き合って考えたことがなかったのです.Mobile2.0の可能性についても,なんとなく感じていた程度でした.本書はそこらへんの指摘が非常にわかりやすく書かれています.

個人的には,iPhoneというミクロな事象ではなく,それを取り巻くWeb2.0やMobile2.0というマクロな観点を改めて認識できたことに大きな価値があったと感じた1冊でした.