デザイン思考の道具箱
- 作者: 奥出直人
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/02
- メディア: 単行本
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著者は,デザイナーかと思いきや,慶應義塾大学環境情報学部教授,株式会社オプティマ代表取締役という肩書きをもった人で,インタラクション・デザインの研究をされているそうです.タイトルから,世間一般で言われるデザイナー(プロダクトデザイナー,グラフィックデザイナー,Webデザイナーなど,つまり狭義のデザインをする人)の話かと思ったのですが,もっと大きな組織運営や経営につながるようなテーマでした.
僕はモノづくりに携わった仕事をしているのですが,僕自身が最近よく感じている,本書でいう広義のデザインに対するさまざまな問題に関して言及されていて,個人的にはかなりヒットした本です.広義のデザインというのは,以下の文から汲み取れるかと思います.
デザイン戦略の本質は,デザイナーと組んで製品やサービスをつくることではない.経営,生産システム,あるいはサービスのあり方すべてに,デザイン思考を適用してくことである.
こういったデザイン思考やデザイン戦略という考え方は,GEやP&G,ナイキなどでは既に取り入れられているそうです.また,2006年のダボス会議ではデザイン戦略がテーマになっていて,ビル・ゲイツやエリック・シュミット(GoogleのCEO)なども参加していたそうです.それだけ注目されているという証拠ですね.
じゃあ,デザイン思考とはなんだ?っていうのと,どうやって経営や生産システムに適用していくんだ?という疑問が浮かんできます.
ものすごく簡単に言うと,『「創造のプラクティス」を「創造のプロセス」に沿って実践していくことで,会社組織全体をイノベーションを生み出す組織に作り変えていくこと』です.そして,この「創造のプロセス」と「創造のプラクティス(道具箱)」が本書のメインテーマとして説明されているのです.
創造のプロセスとは下図のようなフローになっています.これ自体は特に目新しいものではないそうです.ただ,それぞれの実践方法などは,IDEOという有名なデザインコンサルティング会社などの手法などを取り入れたもののようです.
本書は,モノづくりを生業をされている方なら是非読んでみる価値はあると思います.特に組織が硬直化して,新しい発想によるオモシロイ商品が開発できてないのならばオススメです.
ただ,1点だけ言わせてもらうと,iPodの成功例をメインの題材としているのですが,若干後付け的な感じもします.つまり,「デザイン思考」を実践したからiPodは成功した,ゆえに,「デザイン思考」を実践すればあなたも第2のiPodをつくれますよというのはかなり論理が飛躍しすぎなのかなと.まあ直接このような論理が展開されているわけではなく,僕がそう感じただけなのですが.なので実際のイノベーションはそんなにスマートではないということを差し引いて読むとちょうどいいかもしれません.
メモ
- 競争戦略 → デザイン戦略(創造性を用いた経営)
単体の商品をデザインするという範囲にとどまっていては,現代21世紀における「モノづくり」はできない.<中略>
その商品だけではなく,その商品を使うことによって可能になる経験とそれを支援するサービス,さらには,商品をサービスが融合した結果,生まれてくる生活や社会に対するビジョンを思い描くことがデザインの最初の作業である.
iPodはプロダクト・インタンジブル
- プロダクト・インタンジブル (セオドア・レビット) : 手に触って確認できるタンジブル・プロダクトでありながら一連のインタンジブルな特徴を備えているもの
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- タンジブル(tangible 触れることができるもの)
- インタンジブル(intangible 触れることができないもの)
- ユーザーの視点に立ったものづくり
- これはユーザーの意見を聞くということではない.どんどん新しいアイデアを形にして市場に出してその有効性を実証しなくてはならない.
創造のプロセス
- 哲学
- 技術の棚卸し
- ビジョンを実現する技術を探すということとは少し意味が違う
- アイデアや技術をたくさん集めて並べ,そしてそれをビジョンに割り振ってみる
- フィールドワーク
- 「経験の拡大」
- コンセプト
- モデル
- 形のデザインを含んだもの
魅力的な商品はなにか便利な機能を実行するボタンがあるのではなくて,一連の操作の流れの中で魅力的なサービスを提供しているものが多い.またネットワークと連携した商品であればあるほど,さまざまな複雑な機能を単純な操作の連結で提供するしくみが必要となる.このようなインタラクション・デザインを考慮したシステムを構築するにはプロトタイプを自在につくりだす能力が必要となる.
道具1 経験の拡大
- コンテキスチュアル・インクワイアリー
- ワークモデル
- 魔法のシナリオ
道具2 プロトタイプ
- フォームブレスト
- ダーティプロトタイプ
- ビデオプロトタイプ
道具3 コラボレーション
イノベーション評価 10の指標 (by ラリー・キーリー)
- ビジネスモデル
- ネットワーク
- 実現プロセス
- コアプロセス
- パフォーマンス
- プロダクトシステム
- サービス
- チャネル
- ブランド
- 顧客経験
情報
- スタンフォード大学のDスクール http://www.stanford.edu/group/dschool/
- シカゴのITTインスティチュート・オブ・デザイン
- 発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法