インドの虎、世界を変える

ライブドアのクチコミ実験プロジェクト「本が好き!」から献本をいただきました.


インドの虎、世界を変える
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書評/IT・Web

インドの特定企業について書かれた書籍はめずらしいのではないでしょうか.

インドのIT企業で有名なのは,TCS(タタ・コンサルシー・サービス),インフォシス.そして本書で取り上げているウィプロは業界三番手に位置します.本書は,ウィプロとはどういう企業なのか?ウィプロの人と組織,最後に,なぜウィプロは強いのか?について書かれています.

「フラット化する世界」に書かれているように,ここ数年インドや中国によるアウトソーシングが注目され,業種によっては脅威になってきています.特にソフトウェア業界では,その傾向が最も急激で顕著です.しかしインド人がいくら理数系に強いとはいえ,まだまだアウトソースされる仕事はいわゆる下流工程(低レベルのプログラミングや評価・テスト)だろうと思って安心していたら,それはかなり危険な思い込みではないでしょうか.

実際アメリカでは,2000年から2004年の米国IT業界のプログラマ数は17%減少しており,2004年には,IT業界のアウトソーシングは37%の成長をみせたそうです.彼らはそれなりの危機感を持っていることでしょう.こういった状況下でソフトウェアエンジニアがどう生きていくかは,「MY JOB WENT TO INDIA」に詳しく書かれているので,是非一読をオススメします.

一方日本では,『週刊東洋経済』2007年5月19日特大号で,2004年でのプログラマの時給1886円が将来651円にまで暴落すると予測されています.ところが,なぜか日本ではインドや中国をそれほど脅威と捉えているとは思えないですよね.それはなぜか?

日本語という壁によってその侵食から今はまだ辛うじて守られているから,というのが答ではないでしょうか.

では,一体ウィプロはどこがすごいのか?

もっとも強く感じたのは「異常に高い倫理観」とそれに支えられた「マジメさ」です.たとえば,ウィプロでは,あらゆる品質基準の認証を取得しています.

日本でももちろんうまく認証を生かして生産性や品質を向上させている企業はありますが,大部分は認証取得が目的化してしまっています.

また,ウィプロではあらゆるものを計測し改善につなげているそうです.財務実績,プロジェクト管理,人事評価,はもちろん,食堂の食べ残しまで計測しているというのだから驚きです.いくら表計算好きな国民性とはいえ...

一般にソフトウェアエンジニアは,変な職人気質を持っていたりして,CMMやメトリクスを嫌う傾向があります.なのにここまで徹底して実践し成果を上げているのは,ウィプロの高い倫理観とマジメさからだと思います.

本書には,ウィプロのよい部分ばかりがまるで夢物語のように次から次へと出てきます.果たしてこれ本当なの?と疑問を持ってしまうほどです.

僕の周りにインド人と仕事をしている同僚がいますが,実際彼らは非常にマジメで勤勉だそうです.貧困から脱出したいという強い願望と,成功へのあくなき追求が彼らをそうさせているのではないかと思います.だとするとあながち本書に書かれていることはウソではないと納得できます.と同時にある種の恐ろしさも覚えます.

プロセスと人材の教育/組織化によって,高品質かつ高効率を実現しているという点で,Googleとは対極に位置する超優良IT企業という印象を持ちました.ソフトウェアエンジニアのみならず,企業経営者なら読んでおくべき1冊ではないでしょうか.