未来を予測する技術 / 佐藤 哲也

ライブドアのクチコミ実験プロジェクト「本が好き!」から献本をいただきました.


未来を予測する技術
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書評/サイエンス

読みながら思ったこと,Googleと映画マトリクスの世界.

著者佐藤哲也氏は,京都大学理学部助手,東京大学理学部助教授,広島大学教授.海洋科学技術センター (平成16年4月より独立行政法人海洋研究開発機構)地球シミュレータセンター長,ほか数々の経歴をもつ人です.その数がハンパじゃない.

本書の内容を一言で言うと,ソ連のスプートニックになぞらえて「コンピュートニック」と呼ばれた,当時世界最速だったスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の話です.

地球シミュレータ」は,大気や海水の動きから気候や地球環境を予測する以外にも,地震津波などの災害予測,生命科学,自動車衝突などに広く利用されているのだそうです.建設費が480億円,年間運用費53億円ですから,かなりの規模ですね.

ASCII24に完成当時の記事があります. 「これが世界最速スパコン“地球シミュレータ”だ!」 みるとわかりますが,建物は縦50m横65m高さ17mの体育館のような大きさで,8台のスーパーコンピュータからなるプロセッサ・ノードをネットワークで640台つないだものがその正体です.総プロセッサ数は5120になります.

この体育館をみて思い出したのが,もうすぐ稼動するであろう建設費6億ドルのGoogleの巨大データセンターです.データセンターとスーパーコンピュータでは,全くモノは違うのですが,どちらもものすごい数のプロセッサやメモリをネットワークで繋いでいて,巨大な電力を食うという点では似てるのかなと.

さて,地球シミュレータが従来のシミュレータに比べてなんでスゴイのかといいますと,「部分」ではなく「全体」を捉えることができるから,「要素還元パラダイム」から「ホリスティック・パラダイム」への変革だからなのです.要素還元とは,物事を細かく細かく要素毎に分解しそれぞれの法則を解明していくこと,ホリスティックとは,包括的,全体という意味です.ようは,たんぱく質やDNAを一生懸命調べても,癌のしくみや進化の仕組みは解明できないということです.もっと全体をシステムとして捉えなければ,その先には進めないということです.複雑性の科学とも言われたりしますね.

課題もまだまだあるようです.経済や社会現象のシミュレーションはまだ難しいのだそうです.地球上の全人類60億人,一人を1つの粒子として60個の粒子の相互作用を解くシミュレーション自体はそうでもないのですが,初期条件や条件付け,具体的には個人の性格情報のモデル化が難しいのだそうです.

ここで思い出したのが,マトリクスの世界です.人間も含めて,地球上の全ての現象をある程度シミュレーションできれば,マトリクスの世界も現実になるのかもと.個人レベルの未来予測(人生のシミュレーション)が活用されることを期待すると筆者は述べていますが,これが実現できて正しく使われればスゴイですね.明るい未来の中で,将来自分がどう生きているかをマトリクスの世界を覗き込むように予測できて,それを現在にフィードバックできるようになるわけですから.それも自宅の PCで簡単にできたりするようになるのでしょう,きっと.

本書,読んでいるとワクワクどきどきしてくるのは,僕が理系だからでしょうか?純粋に科学ってスゴイと感じた1冊です.