iPodは何を変えたのか?
- 作者: スティーブン・レヴィ,上浦倫人
- 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
- 発売日: 2007/03/29
- メディア: 単行本
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『ハッカーズ』の著者,スティーブン・レヴィの最新作.iPodが世界を変えるまでの「成功の軌跡」を鮮やかに描く.
当時のiPod開発責任者ジェフ・ロビンは言う.
「本来は複雑なコンセプトを,信じられないぐらい簡単で使いやすくするのがアップルって会社だ」
著者スティーブン・レヴィは,全く対照的なソニーに対して痛烈な批判を浴びせる.
同社は何度か発売延期を繰り返した末に,ようやくデジタル・ウォークマンを市場に送り出したが,これは手持ちの曲ファイルを簡単に転送することもできない,ほとんど使い物にならない代物だった.なぜならソニーは著作権侵害行為を嫌うあまり,この機種を一番普及しているMP3に対応させなかったからだ.
これこそ,まさに2社の命運を分けた本質だと思う.
本書は,その誕生から圧倒的成功までの軌跡を,さまざまな登場人物(競合他社も含めて)を交えて,とても濃密に描写している.とくに開発シーンでのソフト,ハード,デザインの連携や設計ポリシー,そしてそれを引っ張るジョブスのリーダーシップに、僕はあっという間に引き込まれてしまった.
また成功までの奇跡と同時に,iPodが人々に与えた影響,つまり人々の何を変えたのかについてもよく分析されている.普段、iPodを使いこなしている人にとって特に目新しいことではないかもしれない.でも,よくよく考えてみると,世界中の人々の考え方や音楽生活,ビジネスモデル,音楽業界,そしてアップル自体をも劇的に変えてしまった.しかもそれまでの常識や業界の障壁を超えてだ.
iPodについての本だが,アップルというかスティーブ・ジョブスという人物についてもっと知りたくなった.
個人的な思い
僕は,カセット時代からずっとウォークマンを愛用してきた.MDウォークマン,MSウォークマン,そしてiPodには手を出さず,待ちに待ってHDDウォークマンを買った.音は圧倒的にいいし,電池の持ちもいい.
しかし,CDのリッピングさえ当時のSonicStage(ソニーのPCソフト)は非常に面倒で,途中対応したMP3再生は煩雑極まりなかった.SonicStageの使い勝手はいまさら言うまでのないが,本体のソフトもまたひどかった.曲を選ぶのに数秒かかっていたと思う.衝撃で音が飛んでよくハングしていたし….
結局,iTunesとSonicStageの両刀使いではあったけど,ハードはそれでもウォークマンを使っていた.そんなソニーファンの僕もnanoを見た瞬間「やられてしまった」.以来HDDウォークマンは全く使ってない.
iPodは破壊的だ.当初はハード的な性能は決してパーフェクトではない.
- 音は悪い
- 電池は持たない
- リモコンはない(基本は)
- 初代iPodはでかいし重い.
でも,ソフト(iTunesとiPod)とその使い勝手は本当にパーフェクトだ.iPodを使ってみると,ウォークマンのハード性能は過剰過ぎで,ソフトの性能は使い勝手など全く考慮されてないのではとさえ思えてしまうほど酷い.
まさに,持続的イノベーションが破壊的イノベーションにやられた好例になってしまった.(イノベーションのジレンマを参照)
本書を読むと,開発チームやスティーブ・ジョブスの考えや思想に非常に共感をおぼえ,またアップルの圧倒的勝利についてもとてもすなおに納得がいく.
iPhoneは次世代iPodになっていくだろうが,映像についてはまだまだ勝負は見えていない.ソニーにもがんばってもらいと思う.
メモ
ジェフ・ロビン語録
ジョブス語録
- 「曲を選択するまでに三回以上もボタンを押させるな!」
- 「僕の一番の貢献は,本当にいいもの以外には常に口を出し続けたことだ」
- 「人が優れた仕事をできないのは,たいていの場合,彼らがそう期待されていないからだ.誰も本気で彼らのがんばりを期待していないし,『これがここのやり方なんだ』と言ってくれる人もいない.でも,そのお膳立てさえしてやれば,みんな自分で思ってた限界を上回る仕事ができるんだよ.歴史に残るような,本当に素晴らしい仕事がね」
ジョン・ルビンシュタイン語録
- iPodに電源ボタンがないのはジョブスの気まぐれではなく,デジタル時代の現実を反映した,アップルという企業全体のポリシーなのだという.
- 「『すぐにシステムの電源を入れたり切ったりできるのがいい製品だ』みたいな信仰があるけど,それは間違いだ.いちいち電源を操作するより,いつでもそのままの状態で使えるほうがずっといいに決まってる」
- 「僕一人だったら必死さが足りなくて絶対にやれなかったことが,彼と一緒ならできてしまう.彼はいつも僕のハードルを上げてくれるんだ」