アート・オブ・プロジェクトマネジメント (2)
アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)
- 作者: Scott Berkun,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2章 スケジュールの真実
スケジュールの3つの目的
よりよいスケジュールの作成方法を考える前に、スケジュールが解決しようとしている問題とは何かから考えなければなりません.そう手段よりまずは目的です.
- いつものごとが完了するのかを表す
- プロジェクトに貢献するすべてのメンバーに対して,チーム全体における個人の成果物の位置付けを理解させ,各メンバーの協調を促進させる
- 進捗を管理し,作業を管理可能な塊に分割するツールをチームに与える
僕が最も重要だと思うのは,2つめ,すべてのチームメンバーがスケジュールイメージを共有するということです.スケジュール自体が正確かどうかは問題ではなく,PMの頭の中にあるプロジェクト成功までのスケジュールイメージをみんなで共有すること,これ非常に重要です.なぜかというと,
- みんなが目指すゴールイメージまたは道のり(戦略ともいう)が共有され,それに向かって動こうとする
- 各メンバーはそのプロジェクトを自分のこととして捉えるようになる
- 各メンバーは,自分の生活と仕事のイメージをリンクして考えられるようになる
- 自分の作業と他人の作業との関連性を認識し,注意を払うようになり,なるべくみんなに迷惑はかけまいと行動するようになる
- (あまりよくないが,)ちょっと無理そうであってもがんばろうという目的意識が芽生える
といった莫大な効果があるからです.
こういった3つの目的を理解すれば,完全なスケジュールを作成できたとしても,プロジェクトの持つ問題をすべて解決できるわけではないということが簡単にわかるはずと述べています.逆に言えば,不完全なスケジュールであったとしても,PMの理解/使い方次第で,そのスケジュールの持つ力を最大限に引き出すことができるのです.
優れた見積もりは優れた設計から生み出される
なぜスケジュール通りにプロジェクトが進まないのか?という疑問に対して,とくに初期計画段階においては,不確定な要素が多いためでっちあげの数字やでたらめな予想で粗いスケジュールを作らざるを得ないからだと説明しています.これを「目隠しをした状態での遠距離射撃」と比喩しています.
また,「スケジュールとは確率なり」とし,その見積もりという行為はとても難しいものであると説明しています.そうは言っても,ではどうすれば優れた見積もりが作れるのかということについて次のように述べています.
優れた見積もりというものは,信頼性の高い設計と要求が揃って初めて生み出されるということです.そしてエンジニアリングにおける優れた見積もりは,優れた情報と優れたエンジニアという2つが揃って初めて生み出されるのです.
見積もりという仕事は,雑用や集計といった類の作業ではなく,メンバー全員が力を合わせて行うべき仕事であり,チーム全体やPMによって全面的にバックアップされるべきものなのです.こうすることによって初めて,優れた見積もりが作成されるのです.
ここで,1つの質問が紹介されています.
「君が自信を持って見積もりを出せるようになるには,私はどういった質問に答えたらいいんだろうか?」
本書で,Scott Berkun は,随所で魔法の質問ともいうべきテクニックを披露していますが,これもその1つですね.
こういった質問をされたメンバーは,なぜかうまくいっていないモヤモヤとした自分の中の悩みや不安について深く自問し始めます.そしてそれがみえてくると次に,それを解消するためのリーダーへの質問を考え始めるのです.この一連の自分自身に向けた思考の中で,そのメンバーは自分の中のモヤモヤとしたものを徐々に明確化する(気づくともいいます)ことができ,おそらくそこで解決方法までも自分が持っていることに気づくのです.
この質問は,見積もりに限らず,さまざまな場面で使える,とてもすばらしいコーチングの質問ですね.
雪玉効果
見積もりはすべて確率です.スケジュールはその見積もりを積み上げたものであるため,スケジュールも当然確率となります.そして,全体の確率は個々の確率が合成されたもの(80% × 80% = 64%)であるため,スケジュールの正確さはどんどん低下していくと書かれています.
これ,当たり前と言われればそれまでなのですが,意外にもこの簡単な事実を見落としてスケジュール作成やリスク管理をするPMが多いのも事実ですね.
スケジュールを機能させるためにすべき8つのこと
- マイルストーンの長さはプロジェクトの不安定さに見合ったものとする
- ビジョンに対しては楽観的に,スケジュールに対しては懐疑的に
- 設計に力を注ぐ
- 追加/削除を議論するためのチェックポイントを計画しておく
- 計画の哲学をチームに伝えておく
- 問題領域におけるチームの経験を見極める
- 共同作業に対するチームの自信と経験を測る
- リスクへの取り組みは早目に行う
「追加/削除を議論するためのチェックポイントを計画しておく」についてですが,せっかく作成したスケジュールを形骸化させないために非常に重要です.定期的でもよいですし,見直しのマイルストーンをあらかじめ設定しておくのもよいでしょう.もちろん問題が発生した場合はすぐに対処すべきです.繰り返しになりますが,「生きた」スケジュールの鮮度を保っておくことは,チームの鮮度を保つのと同じくらい重要だと思います.
「計画の哲学をチームに伝えておく」についてですが,どのようなアプローチやテクニックを使用してスケジュールを作成するかに関係なく,それはチームの常識となっていなければなりません,と述べています.PMの頭の中の戦略,スケジュールの有用性などが,チームメンバーの”常識レベル”にまで浸透していることが大事なのです.それにより,メンバーはスケジュールに対して表面的なことではなくより本質的な理解が可能になり,深く考えるようになり,本質的な質問をすることができ,スケジュールの存在意義がさらに増すことになるのです.
参考文献
- 「アジャイルと規律」
- 「ピープルウェア」
- 「ソフトウェアプロセス成熟度の改善」
- 「XPエクストリーム・プログラミング入門」
- 「XPエクストリーム・プログラミング実行計画」
- 「プログラミングの心理学」