アート・オブ・プロジェクトマネジメント (3)
アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)
- 作者: Scott Berkun,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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3章 やるべきことを洗い出す
極限までシンプルにした計画
極限までシンプルにした計画として,以下の3つのアクティビティに集約して説明しています.
- 何を行う必要があるのか? : 要求定義
- どうやって行うのか? : 設計/仕様書作成
- 実際に行う : 実装
何を行う必要があるのか判らない場合,どうやって行うかを考えるには時期尚早なのだと述べています.
この,What と How ですが,エンジニアの多くは How を考えるのが大好きですよね.でも How よりもまずは What を正しく見極めることの方が重要ですね.こんな当たり前なことを,リーダーでもたまに間違っているのを見かけます.
計画へのアプローチ : 3つの視点
計画をつくるために,プロジェクトマネージャは,以下の3つの観点が代替することのできない特色あるものに貢献しているということを認識しなくてはならないとしています.(つまり,市場戦略ほどエンジニアリングの進歩に貢献しているものはなく,エンジニアリングの進歩ほど市場戦略に貢献しているものはないのです)
- ビジネスという視点
- 技術という視点
- 顧客という視点
3 つの視点は常にお互いに重なり合っていて,計画における最適な視点を得るためには,それぞれの類似点と相違点を見極めることが必要になります.3つがすべて重なっている部分をプロジェクトの目的とすることができれば,組織として最大の価値を得ることができるわけです.この重なった部分を見極めることができるマネージャーは,そういったことができないマネージャーと比べると大きなアドバンテージをもっていると書かれています.
そのためには,「視点を超越した視点」からプロジェクトを見る必要があると説明しています.つまり,各々の利益ではなく,一歩下がったところからプロジェクトもしくは組織としての利益を一番に考えるという観点で見ることにより,多少の犠牲はやむを得ないとして,完全に同意できない意思決定であってもそれを支持するようになるのです.
正しい疑問を持つ
正しい計画作業を行う最もシンプルな方法は,計画が答えることになる一連の質問を洗練させることだとし,以下の例をあげています.
- 議論の対象となる顧客層をいくつか挙げることができるか?彼らのニーズや振る舞いは,どのように違っているか?
- こういった顧客層を理解するためには,どういった統計情報が役に立つか?
- 各顧客層は,製品をどういった行為の最中に使用するのか?それは製品の購買目的とどのような関係があるのか?それは私たちの製品マーケティングとどのような関係があるのか?顧客が製品を使用して自らのニーズを満足させようとする際,どういった問題が起こるのか?
- 潜在顧客とはどういった人たちであり,彼らに提供すべき機能,シナリオ,製品種類としてどういったものが考えられるか?
- 私たちは,こういったニーズを満足させ,問題の解決を行えるような,技術や専門知識を持っているのか?
- 私たちは,こういったニーズを満足させ,問題の解決を行えるような,技術や専門知識を獲得することができるのか?
- 新しい製品や製品群に大きな機会は存在しているか?また,現在の製品や製品群に直結しているニーズはあるのか?
- 洗い出したニーズを満足させ,問題解決を行う上で,私たちの技術や専門知識を活かすことができる,実現性のあるビジネスモデルは存在するのか?
- 次のリリースや製品販売を行う時期はいつか?ターゲットをいつにするのが最も適切なのか?
- 競合他社は何を行っているのか?彼らの戦略はどういったものであり,どのように戦っていくことができるのか?
よく見かける悪い手段
計画を立てる際によく見られるお粗末なアプローチが以下です.もちろん背景や根拠をしっかりと検討したうえでの結果ならば問題はないのですが...
- 前回と同じことを行う
- 前回やり残したことを行う
- 競合他社がやっていることを行う
- ホットでトレンディなものを作る
- これを作ればみんな使うだろう
何が問題かというと,「前回やり残したことを行う」については,積み残した機能である以上,本質的なものではないはずということです.「競合他社がやっていることを行う」については,競合他社がその機能を実現している理由は,馬鹿げたものであるかもしれないということです.「これを作ればみんな使うだろう」については,かつてないほど強力なネズミ取りなど,世の中から必要とされているのだろうか?ということです.結構耳が痛いことばかりです.
計画プロセス
計画という作業は,もともとバラバラな考え方をもつメンバー同士が集まり,互いに学びあい,日々少しずつ議論や妥協を重ねていく必要があります.そんな作業において心にとどめておくべき3つのことが以下です.
- プロセスで最も重要なことは,メンバーに期待される役割である
- 全員にマイルストーンを知らせておくこと
- それぞれの視点を議論する打ち合わせを頻繁に開催すること
要求の権限は誰がもっているのか?設計は?意思決定の方法は?収拾がつかない場合はどのように解決するのか?こういった人間関係に関する問題は初期のうちに定義しておくことが大切です.また,計画作業の完了までには,どういったマイルストーンが設定されているのでしょうか?成果物の完成日時は?それぞれの責任者は?これらも明確化しておく必要があると述べています.
参考文献
- 「禅とオートバイ修理技術」
- 「要求仕様の探求学」
- 「ユースケース実践ガイド」