アート・オブ・プロジェクトマネジメント(5)
アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)
- 作者: Scott Berkun,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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5章 アイデアの源
要求と解決策の間に横たわる溝
多くの人々は創造的な作業の計画が得意ではなく,また,要求の一覧から解決策を導き出す,いわゆる設計を行う方法に対して十分に書かれた本があまりないため,この設計作業はしばしば「不可解なプロセス」として扱われるとしています.
そして,この不可解な問題を解決する,2つの簡単な方法について説明しています.
- 要求の品質を高めること
- 設計の探求を行うこと
要求の品質を高めるための指針
よりよい要求を生み出す上での指針を,『要求仕様の探検学』から引用しています.
- 要求の交渉と繰り返しのための計画を提供する
- 誤った前提を見つけ出す
- 失われた情報を見つけ出す
- 各要求の相対的な優先順位を定義する
- 曖昧になっている言葉を洗練/除去する
「誤った前提を見つけ出す」について,「なぜこれが必要なのか?」「これはどういった問題を解決するのか?」「これは誰の要求なのか?」といった疑問をこまめに持つことで,要求の前提というものにフォーカスすべきと述べています.「曖昧になっている言葉」とは,「高速」「大規模」「コンパクト」「優れた」「整理」「使用可能」といったものを例にあげています.
設計の探求
要求が決まると,次にその要求によって定義された領域(問題空間)を探求することなります.その中には与えられた問題を解決するさまざまな方法が眠っています.
そしてその創造的な作業における,2つの邪悪なスローガンに注意せよと警告しています.
- 「悪いアイデアなど存在しない」
- 「枠の外で考える」
「悪いアイデアなど存在しない」というのは,ブレスト以外では,これが間違っていることは明らかとしています.実際,優れた解決策が存在する問題空間は,優れていない解決策が存在する問題空間よりもはるかに小さいのです.また,アイデアの優劣の判断は難しいとも述べています.なぜなら,優劣は背景となる状況 (コンテキスト)によって決まるため,そのアイデアの実用性と抽象性をはっきりと区別して考えなければならないからです.
「枠の外で考える」については,パズルやクイズならOKです.しかし,設計における問題解決と創造的思考において,もっとも難しいことは枠を外すことではなく,どういった制約を使用し,また無視するのか,そしていつそういったことを行うのかが重要なのだと説明しています.
優れた質問は優れたアイデアを惹きつける
エンジニア,学者といった頭の良い専門家が,自分が聞きたかった内容であるかどうかに関係なく,知っていることを楽しそうに話す傾向があることから,人というものは,自らの知識に溺れて周りが見えなくなる傾向があると指摘しています.ゆえに,「優れた質問なしに優れた答えは得られない」と結論付けています.
創造的な問題解決ために使える3種類の質問が以下です.
- 焦点合わせの質問 (良い)
- 創造的な質問 (良い)
- 修辞的な質問 (邪悪)
それぞれの詳細については本書を読んでいただくとして,ここでは,プロジェクトマネジメント,創造的思考,問題解決すべてに適用できる最もパワフルな質問を引用しておきます.
解決しようとしているのは,どのような問題なのでしょうか?
この質問,高いレベルから低いレベルまで,つまり大局的な戦略会議から,設計作業の問題といったものまで,あらゆる場面で有効です.Scott Berkun は,ポスターにして机に張っているのだそうです.
僕の経験から,この質問には2つの大きな効果があると思いました.
1つは,対立した意見をもつグループ間の交渉における効果です.互いのアイデアや意見が食い違っていてにっちもさっちもいかなくなったときに,本当のところ問題は何なのか?という問題の本質を参加者自らに考えさせることができるということです.つまり,一段上に視点をシフトさせることができ,個人やグループではなくプロジェクトとしての本質的な問題に気づかせる方法として非常に効果があります.
もう1つは,よくあるプロジェクトやチーム内の問題解決のおける効果です.1つの問題解決には,考えなければならない小さな問題(観点)がいくつもあり,それがメンバー間でずれていることがよくあります.たとえば以下のようなものです.
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- 問題の症状
- 問題の直接的原因
- 問題の根本原因
- 問題の暫定対策
- 問題の恒久対策
- 問題の再発防止策
- 対策のスケジュールや体制
そこで,いったい今はどの観点について議論しているのかというところにみんながすぐに立ち戻れるようにするときに,しばしば効果を発揮します.
本書にも書かれていますが,あなたがチームから信頼を得ているのであれば,というのがこの質問をパワフルにさせる大事な前提条件です.信頼があるPMからの質問だからこそ,メンバーは「ん?なにか大事なことを見過ごしているのかな?」といった気持ちになれるからです.
同様のことは,ワインバーグの問題発見学の名著『ライト,ついてますか』に詳しく書かれていますので,興味のある方はぜひ読んでみてください.