アート・オブ・プロジェクトマネジメント(14)

アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)

アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)


14章 中盤の戦略

飛行機の前方を飛行する

巨大で危険な物体を操縦するには,操縦桿をしっかり握っているだけでは不十分です.それが巨大であり,多くの人が関与しているのであれば,より大きな慣性が働くのです.このため,優れたプロジェクトマネジメントを行えるかどうかは,プロジェクトの一歩か二歩先を読む(飛行機の前方を飛行する)ための労力にどれだけ投資できるかにかかっていると述べています.

戦闘機のパイロットが一歩か二歩先を読めなくなった時のメンタルイメージを,「飛行機の後方を飛行する」と表現するのだそうです.

飛行機の前方を飛行し続けるためのもっと簡単な方法が,サニティチェック(C言語でいうところのasser())で,これには戦術的質問と戦略的質問があります.ここでは,戦略的質問を抜粋しておきます.

前方を飛行するための戦略的質問
  • 次の納期/マイルストーン/成果物を適切な精度で達成する確率はどれだけあるか?
  • その確率を向上させるには,どういった調整が必要となるか?
  • どのようにすれば調整を慎重に,そして他から切り離して行えるようになるか?
  • 今日/来週/来月に起こりそうな最大のリスクとは何か?こういったリスクが実際に発生した場合,どういった手を打てるのか?
  • 私の知らない間に世界が変わっているということはないか?

プロジェクト内部に気を取られて見落としがちなのは,最後の項目ではないでしょうか.役員や顧客といったステークホルダー,競合他社の動向といったことを指しています.

動いている標的を狙う

「そうだ,私の意見では戦闘というものは計画通りに行えるものではない.計画は変化に備えた共通の基盤でしかないのだ.重要なことは,全員が計画を知っておくことで,容易に変更が可能になるということなのだ.…近代戦は非常に流動的であり,意思決定は迅速に行わなければならない - そしてそのほとんどは計画に従ったものとはならないのだ.しかし全員が少なくとも,自分はどこから来て,(その後)どこに向かっていくかということを知っているのだ.」
イスラエル防衛軍司令官 ダン・ラネル陸将補

計画を利用して移動する目標(要求,制約,設計)を狙う場合,適切なタイミングで計画を見直しているのであれば,標的の移動距離はさほど大きくならず,時間と速度と方向が判れば標的を捕捉することができると述べています.

マイルストーンやコーディングのパイプラインといったタイミングで,見直しをかけるのがよいと指摘しています.

また,すべての計画にはどれだけの変位までが許されるのかという対象範囲が存在しており,その範囲はプロジェクトの進捗に伴い伸縮することにも注意が必要だと指摘しています.

参考文献