ウィキノミクス
- 作者: ドン・タプスコット/アンソニー・D・ウィリアムズ,井口耕二
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2007/06/07
- メディア: 単行本
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「ウィキノミクス」とは「ウィキ」と「エコノミクス」を組み合わせた造語で,コラボレーション経済というような意味です.
Web2.0が企業や経済にどのような影響を与えていくかといったウェブに限った話ではありません.多くの事例はリナックスやウィキペディアなどのいわゆるオープンソースのソフトウェアが多いの確かですが,「ウィキノミクス」は音楽,出版,医薬,にはすでに広がりつつあり,そして今後はあらゆる業種に浸透していくであろうと述べられています.
音楽や文学,映画,ソフトウェア,テレビなどの各企業は,<中略>あらゆる産業を変える大変革における最初の犠牲者である.産業中心の経済を支えてきた巨人の多くがおそれを感じている.
この一文は非常に興味深いです.というのは,今まさに大きな変化の流れの真っ只中にあって,巨大な利権/権力構造が「ウィキノミクス」という渦にのまれ,徐々に崩れようとしているのを日々目の当たりにすることができるからです.日米の温度差に注目するとなお面白いですね.
本書では,この大変革を以下の7つのモデルに分類し,さまざまな事例を紹介しています.
コラボレーション経済の7つのモデル
- ピア開拓者,ピアプロダクション : ウィキペディア,リナックス
- アイデアゴア : 世界中のシーカーとソルバーのマッチング
- プロシューマ : セカンドライフ(消費者であり生産者でもある)
- 新アレクサンドリア人 : コラボレーションによる科学,デジタル図書館,ヒトゲノム計画,新薬開発
- 参加のプラットフォーム,オープンプラットフォーム : WebAPI,アマゾン
- 世界工場 : ファブ・ラボ,ボーイング,BMW
- ウィキワークプレイス : 硬直した雇用関係に基づく閉鎖的で階層構造の職場から,自発的参加による分散型でコラボレーションによる企業内外の知識と活用する形へのシフト
ただし,ちょっと残念なのは,これらの事例から企業として「ウィキノミクス」を活用し成果を出すための具体的施策にまで踏み込みていないことです.「ウィキノミクスの4大原則」や「ウィキノミクスの設計原則」までしか到達できていない点です.
ウィキノミクスの4大原則
- オープン性
- ピアリング
- 従来の階層型の組織構造ではなく水平型の組織構造を指す
- 共有
- グローバルな行動
- 多国籍企業(世界中を相手にしてはいるが,地域ごとに明確な仕切りがありそれぞれ間接部門が重複する)という意味ではない
もし,これを実際に自分がチャレンジしようとすると,ざっと考えただけでも次のような疑問点があがってきます.
- 収益モデル
- 具体的な組織運営方法,
- どこをオープン(またはコントロール配下)にすべきかを判断
- 評価/報酬
- 個人のキャリア
- リーダーの難しさ
- 管理手法,品質や期日など
- ハッキングへの対処,企業責任の問題
また,ウィキワークプレイスの台頭として,組織における個人の役割も着実に変化してきていることを指摘しています(これ自体はいまやかなり自明).グーグルの開発組織が今もっともそれに近いのではないかと思います.
ワークプレイスの変化予測
ネット世代の若者にとっては,ウィキやメッセンジャー,ブログといったコミュニケーションツール,コラボレーションは当たり前であり,そういった世代が企業の中核もしくは管理職になってくると,いよいよ「ウィキノミクス」が主流になっていくと思われます.
こういった変化の中で,個人的にこれから特に重要となるであろうと思うことは,コラボレーションや創発をまとめていくリーダーの価値です.つまり,まだまだ「ウィキノミクス」について未解明な事象や未解決な課題が多いということは,裏を返せばまだまだたくさんのチャンスが埋もれているということです.誰が先にそれらに気づき掘り起こそうとするかだと思います.それらを確立した人が次世代のリーダーになっていくに違いありません.僕はここを探求したいと思っています.
本書は,「ウェブ進化論」や「フラット化する世界」を読んだ方は,すんなり読めると思います.また開発・生産に携わっているエンジニア,経営者は,読んでおくべき1冊だと思います.
メモ
結果的にコラボレーションとなるのではなく,最初からコラボレーションを前提にソフトウェアを設計するのだ.
「オープンソースの世界では,ばらばらのコンポーネントが集まって大きなエコシステムとなります.コンポーネントやプロジェクトを構築するとき,まず,そのほかの部分とどのような形で相互運用できるようにするのか,から考えます.つまり,ソフトウェアの書き方やソフトウェアの世界で事業を行うやり方に対するアプローチ自体が大きく異なっているのです」
ピアプロダクションの3つの条件
- 生産物が情報や文化であること.参加コストを抑える
- コンポーネント化
- 統合コスト(リーダーシップや品質管理)を抑える
他に,
- ピアレビューシステム
- リーダー
- 長期にわたり活動を推進してく方法を策定
世界工場を使い倒すポイント
- 価値を左右するポイントに集中すること
- 自動車ならば,自動車という機会から運転感覚を形作るさまざまなソフトウェアと運転者とのインターフェイスへ
- 航空業界なら,最終製品を作り上げる能力と開発ノウハウをすべてもつことよりも,コストを削減し大規模な開発を短期間で済ませること
- 編成し,組織する力を通じて付加価値をつけること
- 迅速で相互的な設計プロセスを構築すること
- モジュール型アーキテクチャを活用すること
- アウトソーシングを単なるコスト削減と考える見方を捨てる必要がある
- 透明で平等なエコシステムを作ること
- サプライヤーは敵対者ではなくパートナー
- コストとリスクを分散すること
- 未来を見つめる鋭い目をもつこと
ウィキノミクスの設計原則
- リードユーザーからヒントを得ること
- クリティカルマスを達成すること
- コラボレーションのインフラストラクチャーを提供すること
- 十分な時間をかけて適切な構造と統制を実現すること
- 参加者全員が価値を得られるようにすること
- コミュニティの規範に従うこと
- プロセスが進化するに任せること
- コラボレーションの精神を研ぎすますこと