ビジネスの”常識”を疑え! / 遠藤功

ビジネスの“常識”を疑え! (PHPビジネス新書)

ビジネスの“常識”を疑え! (PHPビジネス新書)

「現場力を鍛える」「見える化」「ねばちっこい経営」など多数の著書で有名な,遠藤氏のPHP新書

本書の主張はズバリこれ.

知恵を出せるようになるためには,徹底的に考える癖をつけることによって,思考回路を鍛える以外に道はない.このとき,知識や情報によってできあがった常識は,時に邪魔にこそなれ,大きく役に立つことはないと思ったほうがいいだろう.
痩せた思考回路しかもっていない状態で,大量の知識や情報を頭に入れると,それがあたかも自分の考えによって生まれたかのような錯覚に陥ってしまって,ちっとも思考回路が太くならないばかりか,思い込みだけが肥大化してしまうからだ.既に述べたとおり,思い込みは思考停止と同義語である.
トヨタがその理念のひとつとして,自分の足で現場に赴き,自分の目で見て確かめろという「現地現物」を掲げ,実践で徹底させているのも,まさに思い込みを排除し,自らの思考回路を太くしろということなのである.

”自分の頭で考えろ”や”常識を疑え”とは,ある意味これ自体がビジネスでは常識である.だから,さらっと読んでみると,”ひとから言われれば至極当然の事”が多いのもうなづける.しかしそれができないから苦労をしている.だからこそ,何をどのように考えれば思考回路を太くできるのかが具体的により詳細に知りたいわけだ.

早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとる一方で,ローランド・ベルガーの日本法人会長でもある遠藤氏の著書だけに期待したのだが...新書でたかだか 200ページに,60個もの事例は多すぎだ.個人的には事例を減らして1つ1つをもう少し掘り下げるか,少なくとも他の文献へのポインタを示してくれるとありがたいと思った.

おそらく本書の狙いは,たくさんの事例から多くの常識が常識ではないのだよ,ということを示そうとしたのだろうが,すくなくとも僕にはなるほどと思える事例も少なかった.正直,期待しただけに残念.

メモ

戦略は事業ライフサイクルに応じて転換すべき?

ライフサイクルを見極めて適切な戦略を,などというのは,およそ現実的とはいえない.ひとつ先をいく戦略はなにかを考え実行することに重きを置く.

商品が短命化して儲からない?

トリンプの「八ヶ岳マーチャンダイジング

  1. 投入商品の数量を従来の70%に抑える
  2. 生産は初回発注分のみ,追加生産はしない
  3. 商品を売り切るシステムをつくる

トヨタ生産方式を導入すれば生産性は向上する?

トヨタ式というのは,実は「しつけ」.その本質は「人づくり」である.

ベンチマーキングをすれば生産性は向上する?

鈴木敏文会長の「他店見学厳禁」.売れている店をそっくりそのまま真似たところで,同じように売れはしない.それよりも,どうすれば売れるかを自分たちの頭で考えろ.

360度評価で公平な評価が実現できる?

上司がきちんとした考課者訓練を受け,多面的な視点で評価ができるスキルを身につけることが先決.結局,どんな評価制度を採用しようと,評価の公平性というのは評価者の能力によって左右される.

優秀な人間が業務を離れると仕事が減る?

サムソンでは,もっとも優秀な社員を1年以上研修に出さないといけない決まりがある.そこで,各現場では日ごろから,全員の能力をまんべんなく引き上げたり,負荷を平準化させたりしている.現場を離れることで仕事に支障が出たら,それは本人の責任でもあるという考え方.