なぜ社員はやる気をなくしているのか / 柴田昌治

なぜ社員はやる気をなくしているのか

なぜ社員はやる気をなくしているのか

閉塞感を打ち破り,組織の風土改革,社員の意識改革を進めるための手法が書かれた本.著者は,スコラ・コンサルト代表の柴田昌治氏.

ポイントは次の3つ.

  • 内発的動機の引き出し
  • 変革プロセスのつくり込み
  • リーダーシップからスポンサーシップへの転換

内発的動機の引き出しとは,文字通り外発的ではなく社員が主体的に行動するためにはどうすればよいのかということ.

変革プロセスのつくり込みとは,形骸化した儀式的形式に捉われたトップダウンの制度やシステムではなく,そのプロセスを使う人達が主体的に参加して質の高い中身の伴ったボトムアップの制度やシステムを構築し,使いながら手直しを続けるしくみのこと.

「スポンサーシップ」とは,「部下を引っ張る」といった今まで重要とされてきた役割ではなく,「部下の主体性を強めて潜在的な力を引き出すリーダシップ」のこと.

本書のテーマを要約するとこうなる.

内発的動機を喚起するためには「経営と仲間に対する信頼感」が醸成されることが前提であり,そのためには「進化の価値観」を体現する「スポンサーシップ」によって「セーフティネット」を形成しなくてはならない.

「組織を進化させていく価値観」というも大事なので,図示しておく.

組織に属している人ならば多かれ少なかれ,自分の組織において本書で指摘されている同様の症状/問題が自覚できると思う.特に大きな組織/企業ならほぼまちがいない.だからこういったコンサルタントという商売が成り立っているのだし.

指摘されている症状/問題は,常識的な社会人ならば誰が見ても問題だと理解できるものばかりだ.そしてもちろん自分は自発的に仕事をしているし,また改革・変革はやるべきだというのは簡単だし,とても全うな意見だ.

しかし,そう思っている(自分は正しく考え正しく行動している)自分自身が,いつの間にか気がつかないうちに,”善意の抵抗勢力”になっていることがあるということを本書は指摘している.つまり,良かれと思ってやってることが儀式や形式的になっていたりするということだ.これは本当に恐ろしいと思う.

実はいま,ソフトウェア開発プロジェクトの変革を足がかりに組織変革を仲間数人でやろうとしている.本書でいう世話人かプロセスデザイナー的な役割になる.コンサルタント的な意味合いもある.その際,本書後半に書かれている,”組織変革プロセスのつくり込み”手法は,具体的に書かれているので参考になる.スコラ・コンサルトのサイトも合わせて参考にしたい.

何事もそうだが,実行することが重要だ.本書も読んだだけでは何も変わらない.実行してはじめて意味がある.(と,自分自身に言い聞かせる)

メモ

内発的動機が失われた理由

  • 善意の抵抗勢力
    • 問題があっても表ざたにしないことで建前上は「問題はないことにしておきたい」という価値観,もっとも恐ろしいのは”善意の抵抗勢力”.つまりこういった建前や精神論の世界で仕事をしている人々には,悪意のかけらもない.もっといえば,まじめに一生懸命みずからの使命を果たしていく努力をしていること.
    • 「与えられた役割を善意でこなしているだけの加害者」
  • 上司と部下の対話が成立しない
    • 部下との対話が成立しないのは,部下を理解する力が欠けている.いざというときに,部下を裏切る可能性を示唆.
    • 対話能力とは答を一緒につくっていく能力
    • 「はじめから答を用意しておくこと=説得」と「十分な準備をしておくこと」は違う
  • 自分の役割・組織へのひきこもり
    • 効率化と仕事の細分化
    • 不確定性の多いプロジェクトでは想定外の事柄が発生するが,与えられた役割をいくらそれぞれがまっとうしていても,それだけですべての事態に対応できないのは当たり前.
  • 大局観が育たない
  • 氷山モデル
    • 改革 : 方針,精度,システム,事業構造など,目に見える氷山の上の部分を中心とする改革を指す
    • 変革 : 「いわれた事,与えられた課題を義務や責任感でこなしていく」状態から「みずから仕事に意味と課題を見つけ出し,周りと協力しながら自分の責任でそれをまっとうしていく」のが当たり前の状態へと組織を変えていくこと.または「問題が本当はたくさんあるにもかかわらず,顕在化しないままとりあえず平穏を保っている組織」を「問題がつねに顕在化しやすく,顕在化した問題が次々と解決されていっている組織」に変えていくこと

信頼

  1. 信頼を実感できない組織
    • 言いだしっぺは損をする
    • どうせ言ってもムダ
    • 余計なことは言わないほうが無難
    • お互いのかかわりはほどほどにして波風を立てない
    • 仕事のやりかたは上が決めるもの,下が何を言ってもはじまらない
  2. 信頼を実感てきる組織
    • 問題を見つけたり,疑問を持つと誰かが聞いてくれる
    • 人が人を助けたといったよい話がどんどん伝わる
    • 上に頼るのでなく自分で考え判断してみよう
    • 多少波風が立ってもきちんと伝えよう
    • 自部門の問題解決に他部門が協力してくれる

1と2の状態の社員の比率のアンケート結果では,管理職と一般社員の認識にはかなりの格差がある.

組織の閉塞感を表す症状

  • 「どうせ言ってもムダ」とあきらめている社員が多い
  • 上司の方針が実行されない,浸透しない
  • 管理職の間で議論が少なく,気持ちがひとつになっていない
  • 上司の言葉がすべて「指示」と受け取られて,中身が掘り下げられず,仕事が形式的になされるだけ
  • 指示された課題について,「なぜ」「なんのため」「どんな意味があるのか」などを問い直すことがない
  • 入社時は元気だった新人が,組織に生き方を身につけ,小利口になり,元気をなくす

スポンサーシップ

「部下を引っ張る」といった今まで重要とされてきた役割ではなく,「部下の主体性を強めて潜在的な力を引き出すリーダシップ」が「スポンサーシップ」

  • セーフティネットづくり
  • 対話でビジョンを描き,共有する
  • 「対話力」で一緒に答をつくる
  • 当事者としての姿勢と自己革新

セーフティネット

スポンサーシップが形成する「経営に対する信頼感」や「仲間からの協力」が,セーフティネットをつくり上げる.

プロセスデザイナー

風土改革のサポート役.プロセスデザイナーは,一緒に考え,一緒に答えをつくっていくことを基本姿勢として以下の役割を果たす.

  • 世話人の資質を持つ人を見極め,顕在化させる
  • 組織の進化を促進させていく価値観をみずから体現し,経営層や社員に身体で伝える
  • 進化の価値観を行動に落とし込むためのサポートをする
  • 変革の全体的なプロセスを一緒に描くサポートをする
  • 話し合いの「場」をコーディネートし,「場」の質を上げる

世話人

  • 「組織を進化させていく価値観」を大切にしながら,組織の潤滑油的役割を果たす社員のこと.管理職でも一般社員でもあり.
  • トップと社員のパイプ役
  • 世話人たちのネットワークをコアネットワークとよぶ.変革の当事者のネットワーク.

その他

  • 変革の初期では,抵抗勢力が騒ぎ立て,混乱(=ゆらぎ)は必ず発生する.トップから,「ゆらぎを伴った変革にトライしてもいいよ」という承認をもらっておく必要がある.
  • 内発的動機の出発点は,単なる「気づき」ではない.「対象に対する関心の強さ」.それは多くの場合,関心は不平や不満のかたちで表現される.つまり,不満分子は強力な変革の腹心になりうるということ.
  • 「風土・体質の改革」と「社員の意識改革」はまるで別物
    • 意識改革は,人が他人に対してどうこう言ってできるものではない.社員一人ひとりの中で内発的に,周りに支えられ,いつの間にか自然に起こっているもの.
    • 風土・体質の改革は,「気楽にまじめな話する」オフサイトミーティングなどの場を通じて,相談し合い,協力し合える関係をつくっていくことからそれははじまる.そうしたことを通じて,仲間と経営に対する信頼感を深めていく.そして,周りからの支援が当たり前の状況をつくっていく.そういう環境づくりを通じて内発的な動機を引き出していくこと.

「変革の当事者」は,みんなと一緒に答をつくり上げていく努力をし,チームの一員としての役割を確認しながら,葛藤し,自らを変えていき,みずから学ぶ努力をしている.当事者であることは,「みずからが組織の進化を支えていく進化の価値観の体現者でなくてはならない」ということでもある.だから当事者になることは,もちろんたいへんなことなのだ.自己変革が必要だから,生半可な思いでは当事者としてふるまうことはできない.