サイバージャーナリズム論

ライブドアのクチコミ実験プロジェクト「本が好き!」から献本をいただきました.


サイバージャーナリズム論 「それから」のマスメディア
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書評/社会・政治

まずはじめに言っておきたいのは,執筆陣のスゴさです.
個人ブロガーであるスポンタ中村氏を除き,歌川令三氏「新聞がなくなる日」,湯川鶴章氏「爆発するソーシャルメディア」,佐々木俊尚氏「グーグル」「ネットvs.リアルの衝突」,森健氏「グーグル・アマゾン化する社会」と,メディアやインターネットに興味がある人ならば,いずれかの著書は既読かもしれません.

これだけの執筆陣の共著というだけで,かなりおいしい本であることが期待できます.ラーメンでいうと"全部入り"のお得感です.

さて,タイトルのサイバージャーナリズムとはなんだ?というと,既存のマスコミに対して,ネットでの個人による情報伝達活動のことを指す執筆陣による造語です.ようはブログやSNSといったCGM(Consumer Generated Media)の事.本書は,CGMはマスメディアになり得るのか?」というテーマについて,5人がそれぞれ独自の切り口でジャーナリズム論を展開しているのですが,全体を通して僕が感じ取ったポイントは2つあります.

ネット情報の質

まず1つ目は,CGMがジャーナリズムの主流になる可能性はあるが大きな課題があるという点.いわゆるネット情報の質の問題です.スケールフリー・ネットワーク,ベキ法則といった複雑系ネットワークや,集合知の問題 (みんなの意見は本当に案外正しいのか?),またはGoogleのスゴさと問題に触れたりと,ネットの課題に対してはいろいろな角度からの鋭い洞察が興味深いです.

日本と欧米の温度差

2つ目は,日本と欧米のネットに対する温度差です.欧米では,ネットがメディアになりうる可能性に既に気づいていて,TVや新聞は積極的にネットを活用しようとしているのに対して,日本はさまざまな既得権益を守ろうとそれこそ必死こいてネット(著作権含)に抵抗しています.

こういった論点に対して,明確な解答が用意されているかというと実はそうではないのですが,実はそこが本書のよい部分なのではと思います.というのも,各人がそれぞれの見解を述べている,"全部入り"だからです.いろんな味が一度に楽しめるし,また読む人によっておいしいと感じる具はちがうはずだからです.

スパッと筋の通った主張/解答は確かにスッキリしますが,今のネットの混沌とした状況をさまざまな視点で切っていくのも,それはそれで僕は好きです.なぜなら,未来へのヒントを探すにはむしろこういった本の方が最適だから.

新書にしてはちょっと厚い270ページですが,"全部入り"にするとどうしても各論は浅くならざるを得ません.また技術的な話も書かれていません.ですから,本書を読み興味を持った具について,さらに掘り下げていくことは必要かと思います.執筆陣の多数の著作の中からいくつか選んで読んでいくのもよいかもしれません.