心はプログラムできるか / 有田 隆也

ライブドアのクチコミ実験プロジェクト「本が好き!」から献本をいただきました.


心はプログラムできるか
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/IT・Web

複雑系創発といったキーワードから,何を連想するでしょうか.

ITの世界では,ニューラルネットワークやウェブなどがよく知られています.組織的な観点では,創発が組織を活性化させるなどといいます.経済や気象,環境なども複雑系といえます.そして,われわれ生物自身やその進化,さらにヒトの心も,創発複雑系の代表といえます.本書は,その複雑な生物の生命現象を,ソフトウェアでプログラムすることで解明しようという研究アプローチを取り上げています.

目次:
第1章 蟻たちの真似をして儲ける話
第2章 進化の力を借りてアートを創る試み
第3章 デジタル生命で進化を研究する時代の到来
第4章 人工生命というムーブメントの本質
第5章 利己的であるからこそ利他性が生まれる
第6章 進化と学習が生む生命と心
第7章 暗闇で不安そうに動くロボット
第8章 計算機の中で心を進化させる
付章 計算機の中で心を進化させる方法
おもしろロボットFile

さまざまな研究論文をベースになるべくやさしく書かれてはいるのですが,前半は数学やプログラミングの基礎知識がないとつまらなく感じてしまうかもしれません.ですが,本当におもしろいのは後半からです.各章は独立しているので,後半だけ読むのもありだと思います.

なかでも8章は最高におもしろいです.タイトルの「心はプログラムできるか」に迫ります.簡単にネタばれしますと...

心の再帰レベルが4,5になるのはヒトだけ,チンパンジーでもレベル2だそうです.心の再帰レベルとは,心の入れ子状態をいいます.例えば,自分と話している相手の心の中には,誰かの心があり,その誰かの心にの中にも,また誰かの心がある...ということです.再帰レベルを上げる,つまり心の進化をシミュレーションするために,人工生命というものを使います.人工生命とは,基本的なルールだけを与えておき,何世代も繁殖を繰り返していき,ときに突然変異などにより思いよらないものに進化していくような,ソフトウェアによる生命をいいます.

そして,この人工生命の進化実験により,ある特異な条件のときのみ数百世代以降で最大のレベル5に進化するシナリオが出現することがあることがわかったのです.つまりヒトに近い心をもつ人工生命がコンピュータ内とはいえ,実際に生まれたのです.

とはいっても,この分野の研究はまだまだこれからなのかなぁという気がします.映画マトリクスのようなマシンはいつごろ実現できるんでしょうね.

個人的には,Webの人工知能やエージェントなどに興味があり,「恋するプログラム―Rubyでつくる人工無脳」という本を読んだりして,人工知能を持ったWebアプリなども作ってみようと目論んでいます.Web2.0に次にくるのは,もしかしたら偶有性や突然変異を生むような人工知能や人工生命のようなしくみなのかもしれません.そういう意味で,次世代Webのヒントになる本かもしれません.