モチベーション・リーダーシップ / 小笹芳央

経営者という立場でのリーダーシップをメインで扱ってはいるが,チームリーダーやプロジェクトリーダーでも,本書の原理原則は適応可能である.

本書が特徴的なのは,モチベーションを切り口としてリーダーシップを語っている点だ.上からの視点ではなく下からの視点,つまり現場あるいはメンバーの視点を重視している点である.とても共感する.

リーダーシップとは突き詰めるとメンバーとの相互作用である.リーダーを震源とする相互作用を組織内につくり出さなければ,リーダーシップは発揮できない.

そもそもリーダーシップはメンバーのモチベーションとは切っても切れない関係なのだから,モチベーションを切り口としてリーダーシップを語ることは当たり前といえば当たり前.

自分のこれまでのリーダー経験やプロマネ経験と照らし合わせても,内容はかなり納得いくものだ.普段自分が気をつけていることやいろいろな本で学んだことが,体系的にまとめられているという印象をもつ.リーダーシップのカタログといえるかもしれない.840円,250ページにしては,かなりよくまとまっている.

ただ,実務でリーダーシップを発揮するためには,もう少し踏み込んだ理解が必要だと思う.このカタログを基に個別の内容についてさらに踏み込み,そして実務において経験を積むことが重要だ.なぜなら,人間相手の仕事(=リーダーシップ)は理論だけでは決してうまくいかないからだ.

著者の小笹芳央氏は,著書も多数ありセミナーや講演などでもかなり人気があるようなので,他の著書も読んでみようかなと思う.

メモ

リーダーシップの条件

  • イカンパニー意識 : リーダーは「自分株式会社」の経営者という意識が大前提
  • ビジョン : リーダー自身の内的体験から来る,借り物ではないビジョン
    • 組織の活動内容
    • 組織の人の魅力や組織風土の魅力
    • 待遇やその他の条件の魅力
    • 組織のビジョンや理念の魅力
  • 5つの葛藤 : 一定の成果を出すために,対立事項を統合していく芸術的活動こそがリーダーシップ
    • 「効率vs感情」 : 効率のためにモチベーションを犠牲にしていいのか
    • 「受容vs支配」 : 市場にどう対応するか
    • 「短期vs長期」 : 目先のことだけでは,将来の成功は危うい
    • 「論理vs感覚」 : 「論理に裏づけされた感性」をもつ
    • 「分化vs統合」 : 分化しつつ,一体感をどう保つか
  • 5つの影響力 :
    • 専門性
    • 人間性
    • 返報性
    • 一貫性
    • 恐怖心
  • 4つのスイッチ法 : リーダーはメンバーに新たな気づきを与える
    • タイムスイッチ(時間)
    • ズームスイッチ(視界)
    • ゴールスイッチ(目的)
    • ロールスイッチ(役割) : メンバのモチベーションだけでなく,組織の役割間の連携状態を劇的に向上させる
  • 4領域のマネジメント
    • 環境
    • モチベーション
    • ルール
    • コミュニケーション

決断なきリーダーシップは最低だが,実行なき決断もまた,絶対に避けなければならない愚行.

  • リーダーシップとは突き詰めるとメンバーとの相互作用である.リーダーを震源とする相互作用を組織内につくり出さなければ,リーダーシップは発揮できない.
  • リーダーに必要なのは,一人ひとりのメンバーのスキルを高め,そのスキルが最大限に発揮されるようにメンバーのモチベーションを誘発する具体的な技術である.

環境マネジメント(環境=市場や顧客や競合他社)

  • 「ビジネス=社会やマーケットに対するコミュニケーション活動」という視点
  • 売上=自分たちが発信したメッセージに対する市場や顧客の指示や共感の総量
  • 利益=市場や顧客から与えられる自由の総量

モチベーション・マネジメント

モチベーション・マーケティング 16のファクター

  • 企業の魅力
    • 会社の基盤に対する安心
    • 理念や戦略への共感
    • 事業内容への興味
    • 仕事の醍醐味
    • 組織風土との合致度
    • 人的な魅力
    • 施設や環境
    • 制度や待遇への納得感
  • 上司の魅力
    • 情報提供
    • 情報収集
    • 判断行動
    • 動機形成
  • 職場の魅力
    • 顧客接続
    • 目的達成
    • 意欲相乗
    • 業務効果
  • モチベーション = 目標の魅力 × 達成可能性 「期待理論」V・ブルーム
  • 「目標の魅力」を高める4つの処方箋
    • ラダー効果 : 上位の目的を示すことで業務を意味づける
    • オプション効果 : 自己選択の機会を増やす
    • サンクス効果 : 貢献実感をもたせる
    • スポットライト効果 : 個人が表彰される機会,名前を刻む機会を設ける
  • 「達成可能性」を高める4つの処方箋
    • マイルストーン効果 : 途中目標を明確に設定する
    • フィードバック効果 : 取り組みや結果を評価する
    • ロールプレイング効果 : 役割演技で視点を移動させる
    • ナレッジ効果 : 専門家や経験者からの伝授,ノウハウを共有する
  • 根源的な欲求
    • 「楽しく仕事がしたい」
    • 「意味の感じられる仕事がしたい」
    • 「誰かに期待されているという実感をもちながら仕事をしたい」
    • 「誰かに貢献できているという実感をもちたい」
    • 「尊敬できる人と一緒にがんばりたい」
    • 「自分らしい目標をもってばんばりたい」

ルール・マネジメント

  • ルール・マネジメント3つの罠
    • 不透明性
    • 非効率性
    • 硬直性
  • ルールの根底には信頼というインフラが不可欠であり,そのインフラがアプリケーションとしてのルールの成否を決める.
  • リーダーにとって最大の財産は信頼である
  • リーダーは組織内の信頼の総量を増やすことに意識するべきである.(信頼は関係性の中に育まれる)

コミュニケーション・マネジメント

  • リーダーが,組織の「内-外」や「上-下」あるいは「左-右」といった「間」をつなぐ存在として機能すること
  • チームリーダーがコミュニケーションの結節点の役割を担い,十分に機能することで,コミュニケーション・チャネル数を減らす
  • 「発信力」
    • ただ聞いたままをそのまま伝えるのでは,結節点を介す意味がない.発信内容の重みづけ,要約,入れ替え,その背景や意義の付与など,「情報の編集作業」や「情報圧縮作業」を施すこと,さらに発信のタイミングや受信側の状況を踏まえることが重要となる.
    • 自分の言葉で発信すること
    • 最も伝えたいことをいかにわかりやすくスムーズに伝えられるか,そして結果的に情報の受け手にどれだけ理解されたか
  • 「受信力」
    • 「相手が何を伝えたいのか」=情報の重要度の判断,「相手は何を目的としてこの情報を伝えるのか」=情報の意味解釈といった,キャッチアップ力
    • 単に与えられた情報にとどまらず,必要な情報を自ら積極的に収集する力が必要になる
  • コミュニケーション報酬
    • 「自分は期待されている」「この組織に必要とされている」という実感をもたせることができるリーダーのコミュニケーション
    • 金銭報酬や地位報酬のように限りあるものではなく,リーダーにその能力があれば,無尽蔵に提供することが可能な報酬
  • 組織変革の2つの武器
    • リーダー自身の「言動」をかえること :メンバーは,リーダーの言動に影響を受け,リーダーが関心を示す事柄しか耳に入れようとしない.マイナス情報を上げてリーダーにいやな顔をされると,二度としなくなる.話題を選り好みするようなリーダーの態度はNG.リーダーが関心の範囲を広げ,情報発信内容を変えたり,耳を傾けるテーマを変えたりすれば,メンバーの思考や行動に影響を及ぼし,組織を変える原動力になり得る.
    • 新しい「言葉」を創造する : 例 アイコンタクト
  • 組織行動を変革する2つの要素
    • リーダー自身が「変革のトリガーを引くこと」 : アクティブ・マイノリティの役割を果たす
    • 臨界点を超えるまで変革行動を継続すること : 最初の1/3を形成するまでのリーダーシップ(1/3の法則)