アート・オブ・プロジェクトマネジメント(8)
アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)
- 作者: Scott Berkun,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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8章 優れた意思決定の行い方
メタ意思決定のための7つの質問
すべての意思決定の実施に先立ち,どの意思決定に時間と労力を投資すべきかを考える,「メタ意思決定」のスキルはとても重要です.そのために,意思決定の重要度を評価するための質問を列挙しています.
- この意思決定の中心にはどういった問題があるのか?
- この意思決定がプロジェクトに影響を及ぼす期間はどのくらい続くことになるのか?また影響の大きさはどの程度になるのか?
- この意識決定が間違っていた場合,どれだけの影響が出るのか,またどれだけのコストがかかるのか?その結果によって,他のどういった意思決定に影響が波及するのか?
- この意思決定にどれだけの時間をかけることができるのか?
- この種の意思決定を以前に行ったことがあるのか?
- 誰が専門家の視点を持っているのか?これは本当に自分が行うべき意思決定なのか?
- 誰の承認が必要なのか?意思決定を行う前に誰のフィードバックが必要となるのか?
僕が最も重要だと思うのは,1番目です.緊急度という側面のみにとらわれず,しっかりと重要度を判断し,問題の本質を見極めるということです.そのための質問を引用しておきます.
-
- この問題の原因は何か?
- これは独立した問題なのか?それとも他の領域に影響をあたえる問題なのか?
- この問題によって影響を受けないのはビジョンにおけるどの目標か?
- この意思決定は仕様書やビジョンのドキュメントですでに行われたものなのか?
- もしそうであれば,それを今また再考する適切な理由はあるのか?
重要でないことを重要視してはいけない
『決断の法則』のおける,意思決定に用いる2つの基本手法を引用し,説明しています.
- 単独評価 : 最初に見つかった妥当な選択肢を受け入れる
- 比較評価 : 意思決定に先立ち,複数の選択肢を評価する
すばらしい解決策とそこそこの解決策の違いがあまり重要でない場合は単独評価が有効であり,その状況が「無差別の領域」にあると表現しています.そして無差別の領域を早期に察知し時間を節約することで,より時間をかけるべき意思決定に注力できると述べています.
メリット・デメリット表の8つの注意点
比較評価で用いられる,「長所と短所の一覧表(メリット・デメリット表)」を効率的に利用するための注意点を8つあげています.
- 「何もしない」という選択肢を必ず含めておく
- あなたは,判っているということを,どのようにして判っているのか?
- 厳しい疑問を投げかける
- 反対意見に耳を傾ける
- 選択肢の組み合わせを考慮する
- 関連する観点をすべて含める
- 紙やホワイトボードに書き始める
- 安定するまで洗練する
「何もしない」という選択肢は忘れがちですが重要ですね.僕の経験から,”よくみかける悪い例”として次の2つをよく見かけます.
- 各項目の粒度が揃っていない.(包含関係を無視して項目が列挙されている)
- 項目が抜けている.(背反する事象がない)
決定する勇気
正しい選択を知ることと正しい選択を実行することには大きな違いがあります.
と述べたうえで,次のことは常に念頭に置いておいてくださいとアドバイスしています.
意思決定というものは勇気の要る作業です.というのも,プロジェクトにとっての最善の意思決定は,メンバーの不評を買うことも多く,チームの中核メンバーを動揺,あるいは失望させ,ものごとが悪い方向へと進んだ際にはあなたが針のむしろに座ることになるためです.
こういった重荷は,リーダーシップを発揮しようとするすべての人が負うものです.意思決定はリーダーやマネージャが行う作業の中核を占めるため,優れたリーダーになろうとするのであれば,勇気を持って意思決定を行う必要があるのです.
また,Scott Berkun は,自らの経験から,「勝利をもたらす選択肢のない意思決定もある」,さらに「優れた意思決定でも悪い結果をもたらすことがある」とも述べています.非常に参考になります.
意思決定のレビュー
意思決定のスキルを向上させるには,2つのことを実践する必要があります.
- あなたにとって難しく,一所懸命に取り組まなければならない意思決定を経験する
- あたなの意思決定の結果に注意を払い,その評価を行う
その評価(レビュー)で使用することができる質問集が以下です.
- その意思決定は核となる問題を解決したか?
- その意思決定をより迅速化できるような,より優れたロジックや情報はあったのか?
- ビジョンのドキュメント,仕様書,要求定義書はその意思決定に役立ったのか?
- この意思決定はプロジェクトの進捗に役立ったのか?
- 鍵となる人々をプロセスに参画させ,意思決定の支援をさせることができたか?
- この意思決定が他の問題を引き起こす/防止するということはあったのか?
- 振り返ってみた場合,この意思決定の最中に気にしていたことは正しいことだったのか?
- 正しい決定を行うだけの十分な権限があったのか?
- この意思決定によって学んだことをプロジェクトの他の部分にどのように適用できるのか?
参考文献
- 「Serious Games」
- 「10日で学ぶMBA」
- 「決断の法則 - 人はどのようにして意思決定するのか?」
- 「統計でウソをつく法」