アート・オブ・プロジェクトマネジメント(11)
アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法 (THEORY/IN/PRACTICE)
- 作者: Scott Berkun,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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11章 問題発生時に行うこと
問題解決の8つの手順
- 気を落ち着かせる
- プロジェクトに関係のある問題を評価する
- もう一度,気を落ち着かせる
- 適切な人材を会議室に呼ぶ
- 選択肢を探求する
- 最もシンプルな計画を作成する
- 実行する
- 結果の振り返り
よくみかける問題
- 見過ごしがある,または何らかの気付きがある
- あなたやチームが何か馬鹿なことを強要される
- スケジュールが遅延している,またはリソースが不足している
- 品質が低い
- 方針が転換される
- チームまたは個人の問題が発生する
- 意見が一致せず,争いが起こる
- 信頼感の欠如が見られる
- 反乱の恐れがある
問題の対処に際し注意すべき点をいくつか指摘しています.1つめは,こういった状況の難しさは,状況それ自体にあるのではなく,その状況が発生しているコンテキストにある場合がほとんどであること.2つめは,こういった難題の開始と終了はしばしば曖昧であるということ.3つは,問題を見つけ出し,何らかの対処を行ったとしても,問題を緩和させ影響を最小化することしかできないかもしれないということです.
僕の経験から注意すべき点は,これらの問題は大抵単独ではなく,同時または連鎖的に発生する場合が多いことです.それゆえ,なるべく早期にその兆候を察知することが大切だと思います.まあそれができれば苦労しないのですが…,ヒントとして Scott Berkun は自身の経験から,「人は自ら経験したことのない問題には共感を憶えづらいのだ」と指摘しています.逆に言えば,本章は,未経験の問題に対する疑似体験として貴重だと言えると思います.
危機の際には,積極的に責任を受け持つようにすることで,他のメンバーに力を与えるようにしてくださいと述べています.以下の名言はぜひ覚えておきたいですね.
この事態がどのようにして起こったのか,私には判らない.しかし,そんなことは今はどうでもよいことだ.それは後で心配することであり,その際には,起こったことに対して私が責任を持つつもりだ.とにかく,この事態が実際に起こってしまった以上,今すぐにX,Y,Zを行う必要がある.X,Y,Zを実現する手段を考え出すために私に手を貸してくれないか?
ダメージコントロール
通常の問題ではなく,本当にとんでもないことが起こった場合,最初にダメージコントロールを行うことになるはずです.つまり,プロジェクトを制御可能な状態に戻すことを最優先にするということです.こういった状況に取り組むには以下のことを検討します.
- 全員ミーティングを実施する
- メンバーが同意しない場合,同意できる点を見つけ出す
- プロジェクトをチームが正しかった状態にまで遡る
- 問題を隔離する
- ダメージを避けるためにリソースの適用を検討する
状況にもよりますが,まずは全員に緊急事態であるということを知らせることが先決だと思います.ミーティングでなくてもメールでもいいかもしれません.まずは混乱を避けることが最重要であるからです.
プレッシャ
プレッシャについて知っておくべき最も重要な点は,こういったことに対する人の反応はまちまちであるということです.一方,ストレスにさらされていることをリーダーが否定し,そういったものを感じないかのように振る舞ったり,ストレス発散の必要性も認めなかった場合(いわゆる体育会系の振る舞いです),メンバーは辛い日々を送ることになります.
プレッシャには自然のプレッシャ,人工のプレッシャ,ポジティブなプレッシャ,ネガティブなプレッシャの4種類があると説明しています.
感情についての感情
バージニア・サティアは,人が予測不能な振る舞いをする理由を説明できるシンプルなモデルを考えつきました.このモデルによれば,私たちが何らかの感情を抱いた場合,すぐにその感情に呼応した第2の感情を抱くことになり,その第2の感情に基づいて何らかの行動を起こすことになるのだそうです.
例えば,こんな場面です.
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- 私 : 「あなたの体は臭い」
- あなた : 悲しい (第1の感情 A)
- あなた : ”私があなたを悲しくさせた”ことに対して,怒り (第2の感情 B)
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ワインバーグによると,この第2の感情は,人間の本能的な振る舞いではなく,後天的に学習された振る舞いなのだそうです.だからやっかいなのだとも言えるのかもしれませんね.
PMとして注意すべきは,メンバーがあなたに対して向ける感情は,あなたのとった行動とは何の関係もない場合があるということと,その感情のうち,どれがあなたの言動に起因するもので,どれが彼らの他の感情に起因しているものなのかを根気よく見極める必要があることだと指摘しています.
ヒーローコンプレックス
ヒーローコンプレックスのある人は,自らが活躍できる舞台となる危機的状況を作り出そうと躍起になるのです.そして,極めて難しい状況下でのスリルとチャレンジを追い求めるあまり,そういったトラブルの芽を摘み取ろうともしなくなるのです.つまり,軽症のうちは,火を探しては消火して回ってくれるので貴重なのですが,重症になると,自ら放火してまわったりするため,とても危険な存在なのです.
ヒーローコンプレックスを引き起こす信念
- 計画など必要ない:私はそれを立証してきた
- ヒーローは一人で戦うものだ
- 偽ヒーロー
- 無能な上司とヒーロー
- 失敗コンプレックス
僕は,軽度のヒーローコンプレックスはむしろ良いものであると思っています.本人のモチベーションもあがるし,他のメンバーへのプラスの影響も期待されるからです.ただし,「無能な上司とヒーロー」には注意が必要だと自戒します.無能なマネジメントのミスをヒーローが復旧(隠蔽)することによる,一種の癒着を意味しているわけですが,そもそもの原因であるマネジメントの改善につながらないという重大な問題を含んでいるからです.
参考文献
- 「ラピッドデベロップメント」
- アンチパターンカタログ http://c2.com/cgi/wiki?AntiPatternsCatalog
- 「ハーバード流交渉術」
- 「無理せずに勝てる交渉術」
- 「ワインバーグのシステム思考法」
- 「”自分らしさ”を愛せますか」
- 「病んだ家族からの旅立ち」
- 「ハッカーと画家」