誰のためのデザイン? / ドナルド・A.ノーマン
誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)
- 作者: ドナルド・A.ノーマン,D.A.ノーマン,野島久雄
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 1990/02/01
- メディア: 単行本
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著者D.A.ノーマンは,心理学,認知科学,認知心理学の第一人者.一時期,「ユーザーエクスペリエンス・アーキテクト」としてアップルにも在籍していた経歴をもつ.
本書の主張は,『ユーザ中心のデザイン』をしようということである.
最近,デジタルデバイド,情報リテラシーなどという言葉で,ユーザ側の格差や能力不足が問題視されることが多い.しかし,問題はデザイナー側にあるとノーマンはきっぱり言う.(ここでいうデザイナーとは広義のデザイナー,つまり設計/開発者のこと)
DVDレコーダが普及しない本当の理由 というエントリーで僕が言及したこととノーマンの主張は同じだ.
一方で,いらない機能満載で操作を複雑怪奇にさせているのは,家電メーカー間の勝手な競争の副産物であり,読めるわけのない分厚いトリセツは消費者に対する逃げ口上を書くため以外の何ものでもない.
30個のボタンがあるリモコンや,PCに似せたお世辞にも直感的とはいい難いグラフィカルユーザーインターフェイス.これらもメーカー側の一方的な論理で作られている.
<DVDレコーダが普及しない本当の理由 より>
繰り返すが,DVDレコーダの使いづらさは決してユーザーの能力が問題ではないのである.本書が出版されたのが1988年だから,20年も前から状況は変わってないことになる.なんてことだ.
さて話を戻すと,本書は古い本ではあるが内容は原則的かつ普遍的であるため,今の時代でも全く問題なく通用する.取り上げられている事例は以下のようなもの.
- VTR,ラジオ,電話機,冷蔵庫
- ドアや引き出しのノブ,水道の蛇口
- キーボードの配列
- 自動車
これらを例に,問題点を細かく指摘し改善方法について体系的に述べている.そして本書のポイントは以下の7つのデザイン原則に集約される.
7つのデザイン原則
- 外界にある知識と頭の中にある知識の両者を利用する
- 作業の構造を単純化する
- 対象を目に見えるようにして(可視化:visibility),実行の隔たりと評価の隔たりに橋を架ける.
- 対応付け(mapping)を正しくする (フィードバック)
- 自然の制約や人工的な制約などの制約の力を活用する
- エラーに備えたデザインをする
- 以上すべてがうまくいかないときには標準化をする
本書の中で,あるデザイナーが,ユーザとデザイナーのへだたりについてこう言っている.
質の高いデザインを作るために私たちが採用している考え方に欠陥があるというより以上に,デザインのプロセスの方に問題があるということです.
つまり,デザイナーとユーザの間には,管理部門,販売部門,開発・製造部門という複数の階層があり,そのデザインプロセスに問題があると指摘しているのだ.これはまさに,昨今のデザイン思考(IDEOが提唱するイノベーション技法)に通ずるものである.
本書は,認知心理学の研究・論文をもとに書かれた400ページもある本だが,内容はわかりやすく書かれておりイラストも多いので楽しめると思う.また心理学的な見地は,ライフハックス(LifeHacks)にも通ずるものがあり興味深い.デザイン(モノ作り)に関わる人ならば,読んでおきたい1冊だと思う.
メモ
- 学習された無力感
- 教えられた無力感
行為の7段階理論
- ゴールの形成
- 意図の形成
- 行為の詳細化
- 行為の実行
- 外界の状況の知覚
- 外界の状況の解釈
- 結果の評価
エラー
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- スリップ(slip) : 乗っ取り型,記述型,データ駆動型,連想活性化,活性化消失,モード
- ミステイク(mistake)
デザイナーが考え違いする理由
- 美しさを第一とすること
- デザイナーは典型的なユーザではない
- デザイナーの顧客が実際のユーザーであるとは限らない
デザイナーが習熟するということと,ユーザが習熟することの間にはおおきな違いがある.デザイナーはデザインしている間に自分で設計している道具に習熟してしまうことが多い.一方,ユーザが習熟しているのはその道具を使って行おうとしている作業なのである.
2つの致命的な誘惑
- なしくずしの機能追加主義
- 誤ったイメージの信奉 (技術的優秀さというみせかけ)
メンタルモデルの3つの側面
- デザインモデル
- ユーザのもつモデル
- システムイメージ